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日本
厳しい環境下における日本株式市場の投資機会と新運用担当者のポートフォリオ運用方針
東 浩平
株式ポートフォリオ・マネジャー
郡司 東彦 ハリー
株式ポートフォリオ・マネジャー

日本経済は複雑性や構造的な課題を抱えていますが、個々の企業に視点を移すと様々な側面が見えてきます。本稿では、日本株式運用のポートフォリオ・マネジャーとして新たに就任した東浩平と郡司東彦ハリーが、厳しい相場環境下における株式運用と日本市場の投資機会について考察します。


マクロ経済の不確実性、FRB (米連邦準備制度理事会) による金融引き締め、円安の加速が日本市場を揺るがせています。このような環境下における日本経済の見通しについて教えてください


東:円安の主因は日米の金利差です。FRBはインフレ抑制のため利上げを継続するものと考えています。しかし、行き過ぎた金融引き締めは米国消費者、特に低~中所得者層を中心に悪影響を及ぼすため、インフレの火消し役としての役割にはネガティブな側面もあります。


日銀は現時点では金融緩和を維持する姿勢を示していますが、一方で急速な円安が進行しないよう監視を続けています。金融政策が変更される可能性は現時点では低いため、当面は円安基調が続く見通しです。円安は一部の輸入企業にとってはリスクとなりますが、輸出企業にとっては追い風となります。


日本はエネルギーや農産・畜産物の純輸入国であるため、円安は日本経済にインフレをもたらします。直近のインフレ率は日銀がインフレ目標としている2%を超えて推移していますが、前例がないわけではありません (1970年代) 。


コロナ禍での入国規制の緩和や経済活動の再開、繰延需要、パンデミック期の強制貯蓄といった要素は、世界経済の下支えとなりました。今後も世界中で現状の消費水準を持続できるか定かではありませんが、年内は現状維持、2023年以降は減少に転じると私は予想しています。


日銀は独自の金融政策を貫く
1年後の政策金利に対する市場の見方の変化 (%)

Japan Navigation

2022年6月30日現在。1年先スタート翌日物フォワード・レートからリスク・フリー・レート (米国:FFレート誘導目標レンジの中央値、ユーロ圏:欧州中央銀行 (ECB) の預金ファシリティー金利、日本:無担保コールレート (オーバーナイト物) 英国: イングランド銀行 (BOE) バンクレート) を差し引いた値を使用。
出所:ブルームバーグ、キャピタル・グループ

郡司:世界経済は、景気サイクルや地政学的ダイナミクスの転換期にある可能性があります。日本だけでなく世界中が、地政学的な緊張状態、サプライチェーンの混乱、利上げやインフレ高進、パンデミックの長期化をはじめとした様々な不確実性に直面しています。


とりわけ、米国経済の動向が世界に与える影響は注目されています。しかし、日本と米国は社会構造も抱える課題も異なっているため、まずは両国の違いを把握することが重要であると考えます。


米国では、数十年ぶりにインフレが高進していますが、労働市場の逼迫を背景に賃金が上昇し続けているため、労働コストも増加しています。また、今年に入ってから積極的な利上げが続き、米ドル高が進行しています。


一方、日本はエネルギー、食料、原材料等の対外依存度の高い輸入大国であり、上流でのインフレ (生産者物価の上昇) と円安に直面しています。これらはいずれも経済にとって悪影響を及ぼします。また、実質賃金の成長も停滞しています。消費に回る所得が減少する中で、下流のインフレ (消費者物価の上昇) は、消費を抑制する要因となる可能性があります。日本経済にとって円安が以前ほど恩恵をもたらさなくなった今、対米ドルでの円安が一段と進行しないように日銀が介入を強化する可能性もあります。


したがって、日本経済に対しては慎重見通しを維持しています。現時点では複数の要因が作用していることが考えられるため、分散されたポートフォリオを維持することが重要であると考えます。


日本の製造業はグローバル・サプライチェーンの混乱による影響を受けていますか


東:特に半導体や電子部品において、原材料価格の上昇やサプライチェーンの混乱は長期的な課題となっています。現在のサプライチェーンを巡る状況は、新型コロナウイルス感染症への規制という一時的な要因や、地政学上の緊張状態およびサプライチェーンの分断といった長期的な要因による影響を受けています。後者については、東南アジアや南米など様々なリソースを持つ地域へのサプライチェーンの再編と再グローバル化といった動きを引き起こしています。


キーエンスなどのファクトリーオートメーション分野の企業は、リショアリングやサプライチェーンの重複にかかるコスト削減需要の高まりで恩恵を受ける見込みです。日本の製造業の多くは、サプライチェーンの混乱にもうまく対応しています。このような状況では、調達源が分散され、経営に優れた企業が注目されます。現在の市場環境下では、執行力に優れサプライチェーンの再編に柔軟に対応できる企業は他社と差別化できると考えています。



東 浩平    株式ポートフォリオ・マネジャー。株式アナリストとして、日本の電気機器、産業コングロマリット、機械、消費者商品、小売、繊維・アパレル企業を担当。経験年数26年。それ以前は、日本の写真関連製品およびオフィス機器、アジア欧州地域の自動車関連企業を担当。入社以前は、三菱商事において原油のシニア・トレーダーを務めた。

郡司 東彦 ハリー    キャピタル・グループパートナー兼キャピタル・インターナショナル株式会社取締役。株式ポートフォリオ・マネジャーに加えて、株式アナリストとして北米以外のグローバル化学産業、及び日本の建設・不動産等6 つの産業を担当。グループ全体の議決権行使ガイドライン委員、投資運用部のESG 化学産業リーダー及びESG チャンピオンを務める。経験年数23年。入社以前は、フィデリティ投信の日本株アナリスト、ニューヨークと香港の投資ファンドでグローバル株アナリスト、主にニューヨークの欧米投資銀行で投資銀行業務や債券業務に従事。


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