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債券
不確実性を乗り切る:債券投資の重要性
ピーター・ ベッカー
インベストメント・ディレクター
フラビオ・ カルペンザーノ
債券インベストメント・ディレクター

2023年初め、中央銀行がインフレ抑制と金融安定のバランスを取らなければならない難しい状況について多くの議論がありました。懸念のひとつが、急速な利上げにともなう金融不安や企業倒産によって、景気後退リスクが高まる可能性です。
直近の金融不安を受けてこうした問題をめぐる議論が激化し、中央銀行関係者の関心を集めています。総合インフレ率はピークに達した可能性があるため、政策当局の重心は金融安定、すなわち金融緩和へと傾くことも考えられます。
本稿では、金融政策が銀行と商業用不動産 (CRE) に与える影響を評価し、最近の動向が金融政策にとってどのような意味を持つのか、債券投資家がどのようにポートフォリオを構築するべきかについて議論します。


銀行の利ざやの縮小


10年以上にわたる超低金利あるいはゼロ金利環境が終わり、金利が上昇に転じたことは、従来の常識では、預金金利と貸出金利の差から利益を得ている銀行にとってポジティブと考えられてきました。しかし、米国の地方銀行が直面した問題を踏まえると、現実はもう少し複雑であることを示唆しています。
今般の利上げを受けてマネー・マーケット・ファンド (MMF) の利回りは、一般的な銀行預金金利を数%上回る高水準となりました。銀行預金は世界金融危機の後、大幅に残高が増えていましたが、こうした高利回りを求めて資金が流出していました。シリコンバレー銀行 (SVB) の破綻も相まって、預金減少の流れが加速しました。


銀行は、預金流出を食い止めるために金利引き上げを余儀なくされており、その結果、資金調達コストが上昇し利ざやが圧迫される恐れがあります。
急速な利上げは、銀行の資産サイドから見ても問題となります。銀行は、市中金利を大幅に下回る固定金利のローン残高を抱えているかもしれませんし、変動金利のローン残高が多ければ、借り手が利払い負担の増加に耐え切れず、不良債権が増加するかもしれません。
これに関しては、地方銀行に対する規制強化が実施される可能性があります。米国の地方銀行は、世界金融危機後に導入された「グローバルなシステム上重要な銀行 (G-SIBs) 」の破綻処理枠組みの対象外でした。しかし、米国の銀行規制当局は、今般のSVBの破綻以前から、地方銀行の破綻処理に関連する規制強化を検討していました。したがって、複数の銀行の破綻を受けてこうした規制強化の蓋然性が高くなったと言えます。
地方銀行がTLAC (総損失吸収力) 適格債の発行など、より厳しい基準に対応することを求められた場合、資金調達コストは預金よりも高くなるため、貸出金利が相応に上昇しなければ、銀行の利ざやはさらに圧迫されるおそれがあります。


商業用不動産 (CRE)


SVBの破綻以来、CREには厳しい目が向けられています。SVBは米国のほかの地方銀行と同様、多額のCREローン残高を抱えていました。次のグラフは、中小の地方銀行が大手銀行の約4倍のエクスポージャーを抱えていることを示しています。
市場の懸念の中心となっているオフィス市場では、コロナ禍を契機とする在宅勤務 (ハイブリッド勤務を含む) へのシフトの影響を受けて需要が大幅に減少しています。この問題は、過去10年にわたってオフィス需要の最大の担い手であったテクノロジー企業が、景気減速でオフィススペースを縮小しているために、一層深刻になっています。例えば、グーグルの親会社アルファベットは2023年2月、従業員数を削減するのに合わせてオフィススペースの縮小を発表、不動産契約の解除のために5億ドルの追加費用の計上を決定しました*[1]
需要減の一方で、金利上昇にともなって変動金利の借り手の利払い負担が増加しており、これらの借り手の一部は「鍵を返す」ことを決定しています。
こうした撤退の意思決定は、追加費用を支払うことに積極的だったコロナ禍における企業の姿勢とは対照的であり、不動産に対して借入金に見合った価値を見出せなくなっていると考えられます。重要なのは、これらのローンはノンリコースローンであるため、債務不履行となっても、債権者による遡及対象は担保不動産に限定されます。つまり、債務者が鍵を返せば、債権者は不要なオフィスを手に入れることになります。
融資をした銀行は多くの場合、オフィスビルの経営には関心がないため、借り手は、債務不履行に陥った場合であっても、比較的強い交渉力を持つことになります。したがって、債務不履行を回避するために、世界金融危機後と同様に返済期間の延長が選択される可能性があります。
悲観的な状況であっても、ポジティブな要素は複数あります。オフィス市場に課題があるのは明らかですが、米国の商業用不動産の有利子負債残高5.6兆米ドルに占める割合は20%を下回っています*[2]。商業用不動産担保証券 (CMBS) の引き受けは世界金融危機以降大きく改善しています。さらに、オフィス市場でも濃淡があり、投資対象として優れたオフィスビルも多く残っています。
オフィスだけでなく、集合住宅、産業用不動産、ホテル、小売業の一部などにも目を向けると、ファンダメンタルズは比較的良好です。しかし、オフィス市場の不確実性がバリュエーションに重石となっています。原資産を慎重に分析し深く理解することで、高い利回りの投資機会を得ることができます。


中央銀行


*1. 2023年3月31日、アルファベット2023年1-3月期決算資料。出所:アルファベット
*2. 2023年3月末現在。バンク・オブ・アメリカによる試算。出所:Bank of America Global Research、US Federal Reserve、Mortgage Bankers Association、2023年1-3月期各社業績


中央銀行は、システミックな問題の発生を許さず、インフレを抑制するために、経済に可能な範囲で圧力をかけます。インフレ率が目標を大幅に上回っていることから、景気減速と失業率の上昇という厳しい状態が続いています。
米国の地方銀行の破綻は、金融システムに対する圧力の副作用によるものです。インフレ率がこれほど高くなければ、こうした金融不安が起きた場合は金融緩和が実施されるはずです。実際、過去の事例を振り返ると、金融危機の際にFRB (米連邦準備制度理事会) が金融引き締めを行ったことはほとんどありません。今回は、インフレ率はピークに達し、低下傾向にあるように見えるものの、インフレの脅威が消えたわけではなく、FRBは金融の安定と物価の安定を両立させるという難題に引き続き取り組む必要があります。
過去の銀行危機とは異なり、今日の中央銀行にはこの両立を可能とするために培ったさまざまな金融政策の手段があります。SVBの破綻を受けて実施されたFRBの流動性対策 (Bank Term Funding Plan:BTFP) 、英国年金の債務連動型運用 (Liability Driven Investment :LDI)の混乱を受けて実施されたイングランド銀行の資産購入は、両方の問題に対応しようというアプローチを示す好例です。いずれのプログラムも、中央銀行のバランスシートを使ってボラティリティを抑制し、問題が金融システム全体に波及することを防ぎました。重要なのは、これらの政策が、インフレ抑制のための利上げ政策とは独立して実施されたことです。


FRBは政策を転換するか


これまでの利上げによって、FRBには大幅な利下げを実施する余地ができています。過去のサイクルを分析すると、FRBは通常、金利がピークに達した後、50bps (ベーシスポイント)から100bpsの単位での積極的な利下げを行ってきました。現在の金利水準で引き締めが十分かどうか、政策立案者の間でも意見が分かれており、FRBや他の中央銀行が実際に利下げに転じる時期は、依然として不透明です。
FRBは利上げを一時停止し、コアインフレ率に注目しています。パウエル議長は2023年6月のFOMC (米連邦公開市場委員会) 後の記者会見で、インフレ全般の方向性を正確に把握するにはコア指標が重要であるとの見方を示しました。
いったん上昇すると下がりにくいというコアインフレ率の粘着性が懸念されており、FRBの経済見通しによると、利上げサイクルの終了までに残り2回の利上げを実施する可能性が示唆されています。過半数のFOMCメンバーがFF金利は5.5%~5.75%でピークに達すると想定しています。これは、3月時点での見通し (5.0%~5.25%) と比べて大幅な上昇となりました。
このFRBの見通しの変更は、不確実性が続いていることを反映したもので、今年に入ってから非常に不安定になっている金利にも波及しています。3 月時点の市場予想では、FF金利が2023 年末までに125bps引き下げられることが織り込まれていました。しかし、5月末時点で織り込まれているのはわずか25bpsの引き下げにとどまります。
FRBの追加利上げと利下げはいずれにしても実施のハードルが上がりましたが、地方銀行危機の影響でFRBは金融の安定をより重視するようになったため、年後半に利下げを実施する公算が大きいと考えています。米国銀行の貸出姿勢は、景気後退期以外では最も厳格化しています。今後はさらなる厳格化の可能性もあるなか、その影響で経済指標が今後数四半期にわたって悪化し、金利上昇が実体経済に遅れて波及してさらなる問題が表面化すれば、FRBは物価安定よりも金融安定を優先せざるを得ないと考えられます。
一方、景気が底堅い場合、高止まりしているインフレを考慮し、FRBは直近の声明に沿って、追加利上げが必要となるかもしれません。その場合、金融政策はさらに抑制的になり、物価の安定と金融の安定の両立はさらに難しくなります。
FRBの次の一手が政策転換か追加利上げか、という議論はありますが、75bpsの追加利上げが実施されたとしても、これまでゼロ金利から5%までの利上げを市場が消化してきたこととは意味合いが大きく異なります。債券価格への影響ははるかに小さいはずで、利上げの終着点であるターミナルレートが近づくなかで、市場がFRBの動きを先取りして金融緩和を織り込むことで、債券価格にはプラスに働く可能性もあります。さらに、直近の利回りは利上げ開始時と比べてはるかに高く、今後想定される価格変動を十分吸収できる水準となっています。


実行可能なアイデア:債券ポートフォリオへの示唆


債券市場は現在、長期的に高いリターンが期待できる魅力的な投資機会を提供していると考えています。5年間の投資期間を想定すると、資産クラスのリスクにもよりますが、年率5~10%の期待リターンが妥当と考えます。
短期的な不確実性が残るとはいえ、金融政策や景気サイクルの見通しを踏まえれば、債券市場、特に高格付け債券は良好なリターンを上げると期待されます。中央銀行が利上げを一時停止すれば、債券投資家は高水準のキャリーを引き続き得られます。一方、中央銀行が利下げに転じた場合、債券市場は高水準のキャリーと金利低下による価格上昇の両面で恩恵を受けます。景気後退シナリオにおいても、先進国債券は良好なリターンをもたらすと期待されます。


キャッシュよりも高格付け債券を選好


2022年は金利上昇からポートフォリオを守るため、キャッシュが選好されました。しかし、FRBが金融政策を転換する場合、キャッシュの保有が過剰であれば、来る金利低下による債券価格の上昇の恩恵を受けられないため、ポートフォリオの相対リターンは悪化するおそれがあります。
過去の金利サイクルを分析した結果、債券利回りは最後の利上げ前にピークに達することが明らかになりました。結果として、債券価格が最も上昇するのは、最終利上げの前と直後の数ヵ月間となります。この時期の早い段階でキャッシュから債券に切り替えれば、高めの利回りを長く確保し、金利低下による価格上昇の追い風も受けることができます。


高格付けのコア債券でデュレーションを長期化


2022年のインフレ率の急上昇と利上げによる逆風が弱まるにつれ、金利上昇圧力が和らぐことが期待されます。このような環境では、国債や投資適格社債などの高格付け債券の投資開始時の利回りは、相対的に魅力的になると考えます。
景気後退入りしてFRBが金融政策を転換する場合、高格付け債券が良好な投資成果をもたらすことが期待されます。また、成長率の低下と利益見通しの下方修正の影響を受ける可能性がある株式からの分散先としての役割も期待されます。


クレジット市場には投資機会があるが、分散、バランス、柔軟性が必要


現在のクレジット市場では全般に利回りが高水準で、魅力的な長期投資の機会を提供しています。しかし、短期的には、スプレッドは依然としてタイトな水準であり、景気後退のリスクを十分に織り込んでいないおそれがあります。むしろ、中央銀行が完璧なソフトランディングを達成するというシナリオを織り込んでいるようです。したがって、当面はより慎重なアプローチを取ることが賢明であり、ヘルスケアや医薬品などディフェンシブな非景気循環セクターが有望と考えられます。こうした企業は一般にキャッシュ創出力が高く、景気サイクルに対する感応度が低い傾向があります。
また、銀行セクターにも投資機会を見出すことができます。不確実性が高まったことで、銀行セクターはファンダメンタルズを必ずしも反映せず、銘柄にかかわらず下落しました。私たちが注目しているのは、大規模で資本力のあるG-SIBsのシニア債です。例えば米国のマネーセンター・バンクは依然として非常に健全な状態にあります。地方銀行から流出した預金の受け皿となっており、保有債券の評価損を考慮しても、バランスシートは強固です。非金融の投資適格社債と比較すると、これらの銀行の多くは割安と考えています。
証券化市場には、分散効果が期待されるだけでなく、さらなる投資機会を見出すこともできます。銀行セクターと同様、証券化商品も無差別に下落しました。オフィス以外では、集合住宅、産業用不動産、ホテル、一部の小売業のファンダメンタルズは良好ですが、これらのセクターに関連するCMBSは市場全体のボラティリティ上昇に巻き込まれました。私たちはこの分野で、AA格やA格のコンデュイットCMBS (複数の不動産に対する複数のローンで構成される債券) に投資機会があると考えています。このようなコンデュイット型債券は、ハイイールド社債よりも魅力的なスプレッドを得られることもあり、リスクに見合ったリターンが期待できると考えています。


債券投資の重要性


本稿で述べたように、債券はスイートスポットと呼べるような価格水準であり、投資妙味があると考えています。政策金利が高止まりするか、金融政策の転換で金利が低下し始めるか、いずれにしても、歴史的に債券が良好なリターンを上げてきたシナリオです。
短期的にはボラティリティがさらに高まる可能性があるため、慎重なアプローチが必要です。ただし、金融政策の発表前に市場が動く傾向があるため、キャッシュを高水準で維持することは高い代償をともなう可能性があります。したがって、投資家は柔軟な姿勢を維持し、高い価値を生み出す銘柄を厳選することが重要です。
主要な債券種別に分散された柔軟な資金配分を通じて、長期的に魅力的なインカムとリターンが期待できる、強靭なポートフォリオの構築が可能になると考えています。



ピーター・ベッカー  インベストメント・ディレクター。経験年数26年。入社以前は、アバディーン・アセット・マネジメントにおいてポートフォリオ・マネジャー、ウエリントン・マネージメントの債券プロダクト・マネジメント・チームにおいてマネジング・ディレクターとして勤務。CFA協会認定証券アナリスト。

フラビオ・カルペンザーノ インベストメント・ディレクター。経験年数18年。入社以前は、アライアンス・バーンスタインにおいて債券シニア・インベストメント・ストラテジストとして勤務。それ以前は、PIMCOにおいてクレジット戦略のプロダクト・マネジャーとして従事。イングランド銀行でキャリアをスタートし、市場部門のアナリストを務めた。


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