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景気後退に備える:歴史と経済指標から学ぶ
ジャレド・ フランツ
マクロ・エコノミスト
ダレル・ スペンス
エコノミスト
キーポイント
  • 景気後退はすべての景気サイクルにおいて不可避だが、頻繁に起こるわけではなく、短期間で収束する傾向
  • 米国では過去50年間にわたって、逆イールド発生の1年から1年半後に景気後退に陥る傾向
  • 弱気相場は景気後退局面と重なることもあるが、株のリターンは景気後退局面全体で見ればプラスになることが多い。業種別では公益事業や生活必需品などが景気後退局面で比較的堅調
  • 債券は景気後退期における投資の成功に不可欠で、安定性と資本保全の機能を提供
  • 世界的な景気後退は2022年終盤から2023年前半までは起こらないだろうが、正確な時期はインフレ抑制を図る中央銀行の金融引き締めのペースと規模次第

コロナ禍とウクライナ紛争を背景とする世界的な景気後退のリスクは、インフレを抑制しようと各国の中央銀行が利上げを余儀なくされるなかで、さらに高まっています。


歴史的に見て景気後退の開始時期を正確に予測するのは困難で、景気後退という言葉の定義にも議論の余地があります。例えば、米国経済研究所では「1) 経済活動全般にわたって著しい下降局面が、2) 数ヵ月以上継続的に、3) 実質 (インフレ調整後) GDP (国内総生産) 、実質個人所得、雇用、鉱工業生産、卸売・小売販売高などの指標に見られる」ことを景気後退の判断材料としています。


景気後退の定義としてより一般的な「GDP成長率が2四半期連続でマイナス」を基準とすると、米国はすでに景気後退に陥っていることになります。しかし、米国の一貫して堅調な雇用増加、過去最低水準に近い失業率、底堅い個人消費の伸びを見ると、景気後退局面にあるとは言い切れません。


本稿では、世界市場がいつ景気後退に陥るかを正確に予測するのではなく、景気後退を示唆する経済指標として何に注目すべきか、過去の景気後退局面で株価はどう動いたか、そして何よりも、景気後退に備えて何をすべきかを考察します。


景気後退はなぜ起こり、いつまで続くのか


まず、景気後退はあらゆる景気サイクルにおいて不可避であるとの認識を持つことが重要です。過去の景気後退の原因はさまざまですが、一般的に景気後退は経済の不均衡が積み重なった結果として発生し、最終的にはその不均衡の是正を通じて次の景気拡大期が始まります。


過去の例で言えば、2008年の景気後退は住宅市場の過剰債務が主因であり、2001年の景気後退はITバブルの崩壊によるものです。直近の景気後退については、世界金融危機以降に実施された緩和的な金融・財政政策の影響に地政学的リスクや感染症の拡大が加わり引き起こされたとみる向きが多いと考えられます。


過去の傾向は将来の指針とはなりませんが、データの上では景気後退はそれほど長くは続かない傾向が見て取れます。1950年以降の米国の11回の景気サイクルを分析すると、景気後退期間はわずか2ヵ月から18ヵ月であり、平均すると10ヵ月程度にとどまることがわかります。また、景気後退が経済に与える影響も限られており、GDPは景気拡大局面では平均で約25%増加するのに対し、景気後退局面では2.5%程度の減少にとどまっています。


失業や企業の倒産で景気後退の影響を直接受ける人にとっては、10ヵ月は非常に長く感じられるかもしれません。しかし、長期投資の観点からは、過去70年間で米国市場が景気後退に陥ったのはその期間の15%足らずに過ぎなかったという全体的な傾向を把握することが重要です*1


*1. 2022年6月末現在。出所:全米経済研究所、Refinitiv Datastream、キャピタル・グループ



ジャレド・フランツ  マクロ・エコノミスト。米国およびラテン・アメリカを担当。経験年数17年。入社以前は、ハートフォード・インベストメント・マネジメント・カンパニーにおいて国際マクロ経済調査ヘッド、ティー・ロウ・プライスにおいて国際経済および米国経済担当エコノミストを務めた。Forecasters Club of New York、National Association of Business EconomicsおよびConference of Business Economist会員。

ダレル・スペンス   マクロエコノミスト。経験年数31年。Phi Beta KappaおよびOmicron Delta Epsilonのメンバー。CFA協会認定証券アナリスト。全米企業エコノミスト協会メンバー。


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